春は桜、初夏は新緑、秋は紅葉、冬は雪・・・と四季折々その瞬間にしか楽しめない京都がありますが、それぞれの季節に一段と魅力を発揮する観光名所があります。
それが、西本願寺。
葵とマッチャは紅葉の名所、西本願寺にやって来ました。なんといっても、見どころは大銀杏です。
「こ・・・これがウワサの・・・!」
葵が見上げる先には、巨大な銀杏の木がものすごい存在感を放って堂々と佇んでいます。
この大銀杏は、京都の天然記念物に指定されていて、見た目はまるで根っこを天に広げたように、大きく空に広がっています。
「樹齢400年・・・」
説明書を読んで葵はそのスケールの大きさに感心しました。
「ねぇねぇ葵ちゃん、この銀杏のうんちく話、聞きたい?」
マッチャがそわそわしながらすり寄ってきました。
聞きたいと言っても言わなくても、マッチャはどうせペラペラと喋りだしてしまうのです。それに、葵は正直なところ、大銀杏のうんちく話を聞きたいと思っていました。
マッチャに先をうながすと、嬉々として語りだしました。
「昔ね、ここで火事が起きた時に、この大銀杏から水が噴き出して火を消し止めたっていう伝説があって、それからこの銀杏は『水吹き銀杏』と呼ばれるようになったんだって」
それは、さすがに作り話だろう、と葵は思いましたが、そのくらい存在感がある銀杏であるということは間違いないんだろうな、とも思いました。
季節的に、ちょうど銀杏の葉が黄色く染まっている頃で、実に見事な黄金色の光を放っているように見えました。緑色の葉っぱも良いですが、やはり銀杏の木は黄色くなる紅葉の季節がイチバン!
キラキラと輝く大樹を見上げて、瞬間的な絶景を、葵は確かに目に焼き付けました。
「ちなみに葵ちゃん、せっかく西本願寺に来たから、ちょっと見せたいものがあるんだけど…」
マッチャはそう言うと、葵を書院へ連れていきました。
「あそこに猫がいるでしょ?あの猫、『八方睨みの猫』って言われていて、大事な書物をネズミにかじられないように睨みをきかせているんだけど、どこから見てもこっちを睨んでいるように見えるんだって」
葵がしげしげと見つめると、確かにこっちを向いているようです。場所や角度を変えても、言われてみればずっとこちらを向いているような気が・・・。
「おもしろい!猫好きの人は必見だね」
こんなちょっぴり可愛らしい見どころもある西本願寺の書院を出ると、黄昏どきになっていました。
薄暗い空の下でライトアップされた大銀杏は、ますます美しい輝きを放っていて、葵は改めて見惚れてしまいました。