マッチャは葵を「どうしても連れて行きたいところがあるんだ」と言って、南禅寺に連れてきました。
「南禅寺は来たことないや…」
そうつぶやく葵に、マッチャは「もったいない!!ここ、ボク本当に大好きな場所なんだよ」と言って、ぐいぐい引っ張っていきます。
南禅寺は京都の中では、二条城や金閣、銀閣、清水寺などと比べると若干知名度が下がる観光スポットではありますが、見どころが満載であること、そして知名度が少しばかり落ちるため、一種の「穴場スポット」のように、じっくりと楽しむことができるお寺です。
「ボクが好きなのはなんといっても、庭!葵ちゃん、この前銀閣で『わび・さび』について話したでしょ?ボクは、ここの庭に、その『わび・さび』を感じるんだよ」
マッチャは興奮気味にそう言って、葵の手を引っ張りました。
葵も、マッチャと京都の歴史名所を巡るのがすっかり楽しくなってしまって「そんなに急がないでよ~」と言いながらも、マッチャが何を見せてくれるのかワクワクしていました。
南禅寺の庭園には、大きい「方丈庭園」と、小さい「小方丈庭園(如心庭/にょしんてい)」があり、どちらもそれぞれ良い味をもっています。
方丈庭園は、お茶と作庭の名人だと言われた江戸時代の大名、小堀遠州が手掛けたと言われており「虎の子渡し」と呼ばれる枯山水庭園の造りになっています。
同じ「虎の子渡し」の庭園は、龍安寺の石庭が有名ですが、ここ南禅寺の庭もなかなかの見応えがあります。
「この、絶妙な空間美、この『余白の美』こそが、『わび・さび』って感じがしない?」
マッチャは本当にここの庭が好きなようで、葵に熱心に話しかけます。
葵も「うん、なんか、分かったような気がする」とつぶやきました。
「わ~!!すごーい!!」と第一印象で歓声を上げてしまうようなゴージャスさはないけれど、なぜかこの庭をずっと見ていたいと、すうっと自分の心の中に染み入るような良さを感じて、葵は不思議な気分でした。
自分が日本人だからそう思うのか、それとも外国の人も同じように、この「わび・さび」を感じてくれるものなのか、葵は疑問に思いました。
「外国の人たちにも、こういう『わび・さび』って伝わるのかな」
思わずマッチャにそう聞くと、マッチャは「どうかな。でも気に入ってくれる外国の方は多いみたいだけどね。シンプルだけどとっても良いって」
この良さが伝わっているといいな、葵はそんな風に思いました。