「葵ちゃーん」
窓をコツコツと叩く音がして、振り向くと、マッチャが遊びにきていました。
「どうしたの?」
葵がそう聞きながら窓を開けると、マッチャはピョンと葵の隣にやってきて、いつものように「遊びに行こうよ~」と誘いました。
最近、マッチャと一緒に京都市内を巡るのが楽しくなってきた葵はワクワクしながら「いいよ、今日はどこへ行く?」と聞きました。
「嵐山!」
マッチャは元気に答えます。
「え~、だってこの前、嵐山におばさん連れてったんだけど…」
「それは、お昼ごはんにおばんざいバイキングに行っただけでしょ。しかも竹林は時間なくてチラッとしか見せられなかったじゃないか」
確かに、マッチャが言う通り、「嵐山といえば」の見事な竹林を、葵はまだじっくり楽しんだことがありませんでした。
そこで、この日は嵐山へ出かけることにしました。
「わ~!確かにすごい!!風情があるね~」
天まで伸びる竹に囲まれて、葵は息を飲みました。
嵐山の竹林は人気の観光スポットのひとつ。
特に夏は浴衣、春秋冬は着物を着て写真を撮るととても映えるということで、若い女性たちの間では「インスタ映えスポット」や「フォトジェニック」として人気が急上昇しているんです。
竹は年間通して色が変わったり姿が変わったりすることがないため、いつ訪れても同じ条件で出迎えてくれます。(多少の色味の変化や葉の付き方は変わってきますが・・・)
「竹って常緑樹なの?」
葵がふと疑問に思ってマッチャに聞きました。
「そもそも竹は木ではなくて草の仲間だから、常緑樹って言い方はしないんだ。
葉が落ちるから、どちらかというと落葉樹に近いようなイメージなんだけど、1年通して葉が出てくるし、きちんと手入れしていれば茶色く枯れてしまうこともないから、常に緑色のイメージが強いんだと思うよ。
それでもやっぱり冬場になれば、多少は色味が落ちて若干茶色っぽくなるし、逆に5月の新緑の時期になれば、青々としてきて本当に美しい姿になるんだ」
さすがマッチャ、相変わらず知識が豊富です。
「へ~、じゃあ新緑の季節がおすすめなのかな?」
葵がそう言うと、マッチャは
「竹そのものは美しく際立つけど、秋には他の樹木が紅葉になるからコントラストが楽しめるし、冬の雪と一緒の竹ってのも風情があって捨てがたいよ。
季節ごとに色々な表情を見せてくれるから、それぞれ楽しみたいよね」
と答えました。
確かに、周りの風景が変われば雰囲気も変わるし、変化があって飽きがこないっていいな。
葵はそう思いながら緑の竹に囲まれて、緑の香りがほのかに漂う空気を思い切り吸い込んで深呼吸しました。